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親権

子どもとの面会を強制的に実現することはできる?

法律基礎知識/親権/離婚について

離婚後、別れた妻が調停や審判で決められたとおりの面会をしてくれない、

あるいは逆に、いろいろな事情があって面会に応じたくない、というご相談をよくお聞きします。

今日は、調停や審判で決定した面会に応じない場合、面会を強制的に実施させることはできるのかどうかという点を考えてみたいと思います。

 

まず、子どもを無理やり引っ張ってきて面会させるということはできません。

そもそも、面会は主に子どもの健全な成長を期して行われるものですが、無理やり面会を実現させるとすれば(そしてそれが繰り返されれば)子どもの心に傷を残す結果になりかねません。

 

法律上、可能性として残るのは「間接強制」の方法となります。

具体的には、面会に応じなければ1回につき〇〇円の支払義務が生じるという形で金銭的な負担を掛けることによって、間接的に履行を強制するという形です。

過去には、離婚調停の中で面会に応じなければ養育費を支払わないという条項が決められた例もあったようですが、基本的に養育費は他の債務と相殺することができない性質のものですので、こういう決め方は相当ではないと考えられています。

 

しかし、「間接強制」ができるのは、かなり特殊なケースで、普通は間接強制の方法すら取ることができません。

というのも、間接強制を行なうためには、面会の日時、頻度、場所、時間、子どもの引渡方法などが具体的に特定されている必要があるからです(最高裁平成25年3月28日決定)。

普通、調停では、日時、場所、子どもの引渡方法などについては「当事者間の協議によって定める」という形で記載されるにとどまり、その中身は漠然としています。

頻度については明記される例がほとんどではあるものの、その書き方は月1回「程度」というように幅を持たせています。

こういう決め方では、実際に履行がなされなくても間接強制に訴えることはできません。

これは、面会は両親の協力に行われてこそ子どものためになるものであり、間接強制が頻発する事態は望ましくないという考え方が背景にあるからだと思われます。

 

上記に引用した最高裁の事例では間接強制が認められているのですが、この事案では下記のとおりかなり詳細に面接交渉の条件が定められていました。

(1) 月1回、毎月第2土曜日の午前10時から午後4時まで

(2) 場所は父の自宅以外の父の定める場所

(3) 子の受渡し場所は父の自宅以外で協議して決めるが、協議が整わないときは所定の駅の改札口付近

(4) 母が面会開始時に受渡場所で子を父に引渡し、父は面会終了時に受渡場所で子を母に引き渡す

(5) 母は、引渡し時以外には面会に立ち会わない

 

なお、この事案では、母は、「子どもが面会を拒否している」と主張していました。

しかし、最高裁は、子どもの意思は調停ないし審判の際に織り込み済みなので、それを理由に面会を拒否できるものではない、と言っています。

もっとも、子どもの気持ちが変化し、面会したくないと考えている場合には、再度、調停や審判を申立てて、以前の内容を変更してもらうことができます。

 

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            堺けやき法律事務所  弁護士 深堀 知子

 

 

 

 

親権争いにおける面会交流の重要性

法律基礎知識/親権

最近、親権の判断に当たり、「面会交流に協力的かどうか」を重視すべきだとする考え方があります。

これは、「フレンドリー・ペアレント・ルール」とも言われ、欧米で主流となっている考え方です。親権者となるべき者には、元配偶者とうまくコミュニケーションを取り、子どもと非同居親との関係をサポートできる能力が必要である、とされています。

したがって、面会交流に消極的な態度を取る親には親権が認められにくくなります。

このフレンドリー・ペアレント・ルールは、日本ではまだ一般的ではありませんが、面会交流に重きを置く判決も出ています。

 

千葉家庭裁判所松戸支部は、昨年3月、離婚後の面会交流を最重要視して、次のような判断を下しました。

 

母親は、父親の承諾を得ずに子ども(判決の時点で小学校2年生の女の子)を連れて別居し、その後、約5年10か月間にわたり母親が養育しており、現在まで合計6回ほどしか面会交流に応じていない。今後も月1回程度の頻度とすることを希望している。

これに対し、父親は、子どもを取り戻そうといろいろな法的手段を講じたが認められず、もし、子どもとの生活が実現すれば整った環境で周到に監護する計画と意欲を持っており、母親と子どもの交流については年間100日に及ぶ面会交流を計画している。

これらの事情によれば、子どもが両親の愛情を受けて健全に成長するためには、父親が親権者となるのがふさわしい。

母親は子どもを慣れ親しんだ環境から引き離すのは長女のためにならないと主張しているが、新しい環境は実の父親が用意する整った環境で、現在に比べて劣悪な環境に置かれるわけではない。

 

しかし、最近報道されたように、この判決は東京高等裁判所によって覆され、高裁では母親を親権者とすべきであるとの結論になりました。

高裁は、面会交流を優先して考えるのではなく、むしろ環境の継続性に重きを置いたものと考えられます。

この事件の父親側は上告を予定しているようですので、最高裁の判断が待たれるところですが、いずれにしても、面会交流に対する態度によっては、親権を失う可能性もあるということは肝に銘じておくべきだと思います。

上記の案件では、母親は過去に回数は少ないものの面会に応じた実績があり、今後は月1回程度の面会を行なうことを提案していますので、特別にマイナス評価となることはないと思われます。

しかし、これに対して、一切面会交流を拒否するような場合には、親権者の判断においてかなり不利な結果になっても仕方がないでしょう。(もちろん、暴力を振るわれる可能性があるなど、特に理由がある場合は別です。)

 

また、本件の原審判決は、母親が父親の承諾なく子どもを連れ去った点も、親権の評価に含めているのではないかと思われます。

一般的には、ある日突然母親が子どもを連れていなくなったという事案でも、それ自体が問題とされることはなく、むしろ、別居以降、母親が子どもを養育し続けているという事実が尊重される傾向があるので、実力を行使した方が有利になるのはおかしいという批判がなされています。

海外では、他方の親の承諾なく子どもを連れ去ることを違法とする国もあり、将来的には親権の判断において重要視されるようになるかもしれません。

 

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「監護権」は私、「親権」は相手と分けることはできる??

法律基礎知識/親権

親権の中身

親権には、法律的に言いますと、大きく分けて「身上監護権」と「財産管理権」の二つが含まれると言われています。

 

まず、「身上監護権」。

これは、平たく言えば「子どもを育てる権利」のことです。

子どもに教育や医療などを受けさせ、子どもの住居を決めることができます。

また、子どもがアルバイトなどをする場合の許可を与えるのも親権者の役割です。

 

そして「財産管理権」とはその字のごとく、子どもの財産を管理する権利です。

子どもに財産なんてないから関係ない、という方もいるでしょうが、 例えば、万が一交通事故などに遭った場合、損害賠償金を請求することができるのは親権者に限られます。 また、子ども名義で銀行口座を開設することができるのも親権者のみです。

ちなみに、大阪府では高校の授業料無償化が実施されていますが、その条件の一つに、 「親権者全員が大阪府内に居住していること」 というものがあります。
例えば、東京在住の父が親権者になっているけれど、実際には大阪府内で母と居住している場合。 こんな場合には無償化の恩恵が受けられないことになってしまいます。

個人的には、こういうケースを何とか救済できないかと思いますが、親権の有無がこんなところにも響いてくるのです。

 

監護権の中身

監護権というのは、ザックリと言えば実際に子どもを養育する権利のことで、通常は親権者=監護権者となります。

しかし、民法上、親権者とは別に監護者を決めることができるという規定があり、親権者が父(母)、監護者が母(父)というように分けることがあります。

一般的には、監護者を決めた場合には、それは、上で説明した親権の内容のうちの、「身上監護権」を渡したことになる、と理解されています。

 

離婚の際、親権で揉めた挙句、妥協案として親権者と監護権者を分けるという形で決着しようとすることがあります。

しかし、上記の高校授業料の件に見られるように、実際の監護者が親権を持っていないといろいろな手続きをする上で不都合なことも多いので、やむを得ない理由がなければ親権者と監護権者を分けるべきではないと思います。

例えば、最近は高校の修学旅行が海外、という学校も珍しくありませんが、パスポートの申請は親権者に限られています。奨学金の申請も親権者の同意が必要です。 こんな場合はいちいち親権者に連絡を取って手続をしてもらう必要があります。

離婚後も元夫婦が密に連絡を取り合っていれば問題ないのですが、実際にはなかなか難しいことではないでしょうか。

 

また、戸籍謄本を取りますと「親権者」は明記されており一目瞭然ですが、監護権者に関しての記載はされません。

ただ単に子どもと一緒に暮らしているという場合、監護権者として定めたのかどうかがあいまいになり、のちに、親権者から「子どもを引き渡せ」と要求されるなどのトラブルが発生する可能性があります。

はっきりと監護権者として定めていれば、特に理由もないのに子どもの引き渡しを要求されるという心配はなくなります。

したがって、何らかの事情で監護権者を別に決める場合には、その旨の書面を残しておくことが必須です。

 

当事務所では、女性弁護士が離婚や親権に関するご相談に応じております。

メールによる無料相談もできますので、どうぞご利用ください。

親権は何を基準に決めるもの?

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今回は、親権を決める際にどんな事情が考慮されるか、ということについてお話したいと思います。

最終的には、さまざまな事情を総合判断する、ということになるのですが、いくつかの原則があります。

 

子どもの意思

 

まず、子どもが15歳以上の場合は、子どもの意思を聴くというルールがあります。これは、家事審判規則の規定に基づくもので、「子が満15歳以上であるときは、家庭裁判所は、親権者指定変更の審判をする前に、その子の陳述を聞かなければならない。」とされています。

もちろん、子どもの希望だけですべてが決まるわけではなく、そのほかの事情も考慮されますが、子どもの意思にはかなりのウエイトが置かれます。

そして、15歳以下であっても、子どもが自分の意見を言える年齢に達していれば、裁判所が何らかの形で子どもの意見を聴くことがほとんどです。具体的には、小学校3~4年生以上になれば、子どもの意見が調停や審判、訴訟手続きに反映されているのではないかと思います。

 

現状の尊重

 

親権に対するひとつの考え方として、「現在の状態が安定していて養育環境に問題がないなら、それを尊重しよう」というものがあり、過去に、このような考え方に基づいて親権を判断した裁判例も多くあります。

この考え方は、例えば、母親が子どもを連れて別居しているような場合、母子間での結びつきがすでに形成されているのに、あえて母子を引き離して子どもを不安定にするのは望ましくないという配慮に基づくものです。

 

 

兄弟姉妹は一緒に

 

兄弟姉妹がいる場合、基本的には引き離さず、同じ環境の中で一緒に養育するのが望ましいと考えられています。もっとも、必ず兄弟姉妹は同じ親権者にしなければならないというわけではなく、何らかの事情がある場合(子どもの意見が食い違う場合や、現に分かれて育てられている場合など)は、親権者が別々になることもあります。

 

母性優先

 

特に小さい子どもの場合には母親の役割が大きいことを理由に、乳幼児では基本的に親権者を母とすべき、とする考え方があります。

もちろん、母親が母親としての役割を果たしておらず、父親(あるいは祖母など)が母親代わりの役割を果たしている場合もありますので、必ず母親が親権者になるとは言えません。
以上、4つの原則についてお話しましたが、この他に、親権者を決める際には、
※ 子育ての環境(住居や同居者など)

※ 仕事等との兼ね合いで時間的に養育が可能なのかどうか

※ 親権者が心身ともに健康かどうか

※ 養育をサポートしてくれる人がいるかどうか

※ 他方の親との面会を上手にサポートできるか
など、さまざまな事情が考慮されます。

 

よく、女性の相談者の方から、「私は夫より収入や資産が少ないので親権を取れないのでは?」というご質問がありますが、収入や資産などの経済的な条件は、実はそれほど重要なファクターではありません。  経済力が劣っていても、養育費の支払いを含めて、子どもの養育に必要な生活を維持できるのであれば、親権者になることは可能です。

 

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親権を決められない場合はどうなるか

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離婚する時に親権者は必ず決定しておかなければならない

海外では、離婚後も、父母の両方が親権者のままという国がありますが、日本の現在の法律では、親権者はどちらか一方に決めなければならないことになっています。

離婚届を見たことがある方はご存じだと思いますが、親権を記入する欄があります。

ここが空欄になっていると、離婚届は受け付けてもらえません。

つまり、離婚と親権はセットになっていて、必ず離婚と同時に決めておかなければならない事項です。

離婚はしたけど、養育費のことは決めていない…というケースはざらにありますが、親権者は未定、という事態はあり得ないんですね。

 

協議で親権者が決められない場合は調停へ

当事者同士の話し合いで親権者を決めることができない場合は、家庭裁判所での調停に持ち込むことになります。

親権者を決めるポイントは、あくまでも子どもの目線。

子どもの立場から見て、どちらに養育を任せるのが子どものためになるのか?ということに尽きます。

つまり、子どもの年齢や心身の状況、今まで育ってきた環境、父あるいは母との結びつきの状況から見て、今後、どういう環境で育つのが望ましいのか、というところがポイントとなります。

現在、離婚後に母が親権を取るケースが約8割と言われていますが、母親の方が子どもとの結びつきが濃いケースが多いことから、このような結果になっているのはないかと思います。

 

 

調停でもお互いが譲らなければ訴訟へ

もっとも、調停はあくまでも話し合いをベースにしていて、強制力はありません。

夫婦ともに、どうしても自分が親権者になりたいと主張して譲らない場合は、調停は成り立たないので、打ち切りとなります。

これを、「調停不成立」「不調」と呼んでいます。

調停が不成立になると、手続きとしてはいったん終了になり、当事者のどちらかがアクションを起こさない限り、そのままの状態=法律的には結婚している状態が続きます。

どうしても離婚したい場合は、訴訟を提起することになります。

訴訟では、最終的には「判決」という形で、裁判官が親権者を決定します。

 

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