法律基礎知識

労働に関する紛争について

バイトを辞めたら損害賠償請求?

労働に関する紛争について

数年前から、学生が「ブラックバイト」に絡め取られて、学業はおろか、健康すら害するケースが頻発しています。

大学に通えないような無理なシフトや時間外のサービス残業を強いられ、こんな状態ではもう無理だと思っても、なかなか辞めさせてもらえないのが「ブラックバイト」の特徴です。

 

学生がバイトを辞められない理由の一つが、「労働期間の約束」です。

例えば、バイトを始めるときに、「2年間は必ず働く。途中で辞めたら損害賠償を請求する」という契約を結ばされていることがあります。

これは巧妙なやり口で、社会経験の少ない学生に、2年間は絶対に辞められないと思い込ませるのに十分な殺し文句と言えます。

しかし、民法628条には、たとえ労働期間が定めてあっても、「やむを得ない事由」があれば、労働契約の解除(つまり、退職)ができる、とはっきりと書いてあります。

 

例えば、

最初に学生であることを告げてバイトを始めたのに、学業に全く配慮しないシフトを組まされている場合、

サービス残業や最初の約束と違う働き方をさせられている場合、

労働法上必要とされている休憩や休日が取れない場合

などは、すべて、「やむを得ない事由」に該当します。

 

したがって、期間の途中で辞めても、損害賠償を請求されるという事態はまず考えられません。

ちなみに、「ホワイト企業」(労働条件に特に問題がない企業)において、労働者が勝手に辞めた場合であっても、実際に労働者に対して損害賠償を請求するには高いハードルがあり、判例で認められた事例はごくわずかに止まります。

なお、期間を定めずにバイトを始めた場合には、いつでも、2週間前に申入れをすることにより退職が可能です(民法627条1項)。

 

学生の中には、「お前が辞めたら店に迷惑がかかる」と言われて責任を感じたり、「こんなことで挫折していては社会で認められない」と言われて将来の就職のためにブラックバイトを頑張ってしまう人もいます。

しかし、労働法違反の企業の言いなりに働いていては、次のブラックバイトの被害者を生むだけですし、いくらブラックバイトを頑張っても将来のためにはなりません。

バイトを搾取することによって、経営者が金儲けをしていることをしっかり認識しましょう。

社会人として必要なのは、正確な知識を身に着けて、おかしいことはおかしいと言える力だと思います。

学生の間は、まだ自分一人の力で解決できないことも多いはずですから、辛いときには周りの大人に相談してください。

 

当事務所でも、ご相談をお受けしております。

ネットからの相談は無料となっておりますので、どうぞご利用ください。

 

堺けやき法律事務所  弁護士 深堀 知子

 

 

 

会社に損害を与えた時の労働者の責任

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例えば、誤ってバイト先の物品を破損してしまった場合。

あるいは、会社の車を運転中、事故を起こしてしまった場合。

こんなとき、従業員に損害の全額を請求し、従業員も疑問を持たずに支払う事例を見聞きしますが、実は、法的には全額を従業員に請求できるケースはほとんどありません。

 

民法の理屈から言えば、他人の物を壊してしまったら全額を弁償するのは当たり前。

例えば、友達から借りた物を壊してしまったら全額を支払いますよね。

しかし、会社と従業員の関係である場合は、別の考慮がなされます。

 

通常、雇用者はそれなりに大きな経済力を持っているのに対し、労働者の経済力は小さく、損害の負担に耐え切れないことも多いです。

また、雇用者は労働者に働いてもらうことによって儲けを得ています。それなのに、逆に損が発生した時はそれを引き受けないのか?いいとこ取りはおかしいのでは?という考え方もできます。

雇用者は、損害をカバーできるように保険に入るなどの措置を講じるべきだ、ということもありますし、そもそも、雇用者も損害発生の遠因を作っていると思われるケースもあります。

 

以上の事情により、過去の裁判例では、従業員が間違って損害を発生させてしまった場合(=過失による場合)には、そもそも損害の請求ができない、あるいは、損害の一部のみを請求できる、とされています。

例えば、最高裁判所の昭和51年7月8日判決は、運転手が追突事故を起こして、会社が事故の被害者に賠償金を支払い、その賠償金を運転手に求償したケースですが、会社は、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において」のみ損害を請求できると判断され、具体的には、損害額の4分の1が従業員の負担割合とされました。

ただし、わざと(故意に)会社に損害を与えた場合には損害額が限定されることはありません。

 

また、労働契約の中で、「会社に迷惑を掛けた場合には違約金を支払う」等の定めがなされることがありますが、このような規定は労働基準法16条に反し無効です。

※労基法16条

使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償を予定する契約をしてはならない。

最近、風邪で欠勤したアルバイトの高校生に罰金を科したコンビニがあるとしてニュースに取り上げられていましたが、遅刻や欠勤の場合に罰金を取るというルールについても労働基準法違反となります。

 

当事務所では、勤務先とのトラブルなどに関する御相談をお受けしております。

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堺けやき法律事務所 弁護士 深堀 知子

 

 

 

 

 

 

労働審判手続きの流れ

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通常の裁判の第1回期日は、形式的な手続のみが行われ、ものの5分もかからず終了することがほとんどです。

実質的な審理は2回目以降になるのが普通です。

しかし、労働審判では進め方が全く異なります。

労働審判は、3回以内の期日で終了することが予定されているので、第1回から非常に密度の濃いやり取りがなされます。

むしろ、労働審判が成功するかどうかは1回目の期日にかかっていると言えます。

 

第1回目の期日では、当事者に対する審尋が行われ、その後に調停を試みるというスタイルがほとんどです。

審尋は、最初に申立人本人、次に相手方本人という順番で行われることが多く、会社が当事者の場合には、事情を一番よく知っている者が対象となります。

通常の裁判の尋問は、双方の代理人弁護士がまず質問をして、最後に裁判官から質問がある、というスタイルですが、労働審判では、裁判所(労働審判委員会)から当事者に対してダイレクトに質問があります。

なお、労働審判委員会は、裁判官1名、民間から選ばれた労働審判員2名の3名で構成されており、労働審判員は使用者側と労働者側からそれぞれ1名となっています。

 

この審尋の結果で、ほぼ、裁判所側の心証が決まってしまいますので、非常に大切な手続となります。

質問される内容は、申立書・答弁書その他の書類を読んで、労働審判委員会が疑問に思った点ということになりますが、質問の内容は事前には分かりません。

どんな質問をされても答えられるように準備しておかなければなりませんし、必要以上に緊張せず、分かりやすい言葉で話せるように練習しておく必要もあります。

 

審尋の後の調停では、裁判所から具体的な調停案が示されます。

つまり、「裁判所としては、この案件はこういう事実関係と考える。ついては、こんな結論で歩み寄ってはどうか?」というお話があります。

通常は、お話をいったん持ち帰って2回目の期日で回答しますが、その場で双方納得して調停が成立することもあります。

もし、当事者が調停に納得せず、審判がなされたとしても、調停案に沿った形での決定になることがほとんどです。

 

労働審判はどのような事件に向いているか?

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労働関係の紛争の解決に使われる方法のひとつとして労働審判があります。

労働審判の最大の特徴は、手続がシンプルかつスピーディであること。

特に、「期日が3回以内で終了する」ため、複雑な事案、法律的に難しい問題が含まれる事案には向きません。

主張や証拠を提出できる時期も制限されているので、事前に万全の準備をしておく必要があります。

 

具体的には、労働審判には下記のタイプの事件が多いと言われています。

●解雇・雇止めに基づく地位確認等

●退職金

●解雇予告手当

●賃金請求

 

その他に、話し合い(調停)で解決する見込みが高い事件は労働審判に向いていると考えられます。

労働審判では、いきなり審判が出されることはなく、まず、調停で解決する道が探られます。裁判所の関与があれば話し合いが成立するのではないか、と思われる事件は労働審判に向いていると言えます。

 

なお、労働審判に向いていない事件が労働審判として申し立てられた場合には、裁判所の判断で、訴訟に移行させることができます。

 

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