免責不許可の具体的事例について

 

破産手続においては、免責決定をもらうことによって法的な支払義務から解放されるという仕組みになっています。

したがって、自己破産を申し立てる人にとっては、免責許可を得ることが破産手続きの主たる目的となるのですが、免責を得られないケースがあります。

 

免責不許可の事例として多いのは下記の2つに該当する場合であると言われています。

※ 浪費や射幸行為によって著しく財産を減少させた

※ 重要財産開示義務や説明義務に違反した

射幸行為というのは日常的には使わない言葉ですが、ギャンブルや宝くじなどを指します。

 

特に、具体的な事例を見ますと、

① 支払不能になってから浪費等の行為があると、悪質性が高いと評価される

② 破産管財人に対する説明義務の履行を拒む、もしくは債権者集会を欠席するということは絶対にしてはならない

ということが分かります。

 

浪費・射幸行為について

 

浪費や射幸行為で財産を減少させることは、法律上、免責不許可事由として挙げられていますが、悪質性が強くなければ、裁量による免責が認められています。

免責判断の基準として考えられるのが、ひとつは金額の大きさです。

絶対的な金額もそうですが、収入や負債額と比べて浪費の比率が高いかどうかということもポイントになります。

また、一応の余裕があるときに浪費をするならまだしも、いよいよ破産しかないという状況になっても浪費等を続けている場合には、悪質性が強いと判断されます。

つまり、弁護士に依頼した後、もしくは、支払いをストップした後には、浪費やギャンブルはスッパリと止めていなければならず、この後に及んでもなお浪費を止められない場合には、免責を受けることは難しいと言わざるを得ません。

 

具体的には、支払不能後(またはそれに近い時期)に約50万円の浪費をした事例で、免責不許可決定がなされています。

もっとも、この事例では破産宣告を受けるのは2回目で、破産決定後にもブランド物を買うなどの事情があったようです。

また、浪費額が約1億円ときわめて高額な事例では、破産者が反省して手続に協力したなどのプラスの事情があっても、やはり免責は不許可となっています。

 

説明義務違反、債権者集会への欠席

 

破産管財人からの質問に応答しない、あるいは曖昧な答えで誤魔化す

ウソの説明をする

債権者集会を欠席する

という行為は致命的であり、免責不許可事例のかなりの割合を占めています。

上記のような行為をする破産者は、たいてい、他にも免責不許可事由にひっかかる行為をしており、それに関連する質問を逃れるために無視したり、集会を欠席したりするわけです。

しかし、質問を無視して逃げるという態度は最悪であり、その態度自体が決定的なマイナス評価となります。そんな態度を取るくらいなら、破産申立てをしない方がマシです。

私自身が過去に関わった事件でも、1件だけ、破産決定直後から破産者が行方不明になった事例がありました。こうなると、どう転んでも免責不許可にしかなりません。

たとえ免責不許可事由があっても、破産手続きに誠実に対応することによって、免責が許可されている事例はたくさんあります。

特に免責不許可事由がある方は、破産管財人への説明や集会への出席の重要性をしっかり認識して手続に臨んでいただきたいと思います。

 

※参考文献 「自由と正義」2017年8月号 54頁以下

 

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堺けやき法律事務所 弁護士 深堀 知子

住宅ローンを支払っている場合の婚姻費用

今日は、夫が持ち家を出て別居しており、自宅に妻が住み続けているというケースを考えます。

この場合、夫が住宅ローンを支払いを止めますと自分の信用履歴にキズが付きますので、夫はローンだけは支払い続けることが多いです。(金銭的な余裕がない場合は別として。)

この状態で、妻から夫に婚姻費用(生活費)の請求がなされた場合、住宅ローンを支払っているという事実はどのように反映されるのでしょうか。

 

例えば、双方の収入から弾き出した婚姻費用として月額10万円が相当と考えられる場合に10万円のローンを払っていたら、

●婚姻費用としてはゼロと考えるのか

●ローンは生活費とは無関係なので10万円を支払うべきなのか

どちらになるのでしょうか。

 

住宅ローンというのは、家賃とは違って純粋に住宅費となるものではなく、その中身は借金の返済です。

借金の返済が終わったら、住宅が名実ともに自分のものになりますので、ローンの支払いは財産形成のためのものであり、生活費にはならない、という考え方もできます。

しかし一方で、夫が住宅ローンを払っているからこそ妻が自宅に住むことができ、住居費の支払いをしなくて済んでいることも事実です。

 

これをどのように処理するかということについてはいろいろな考え方が成り立ちますが、

一般的には、「ローンの一部を婚姻費用から差し引く」ことが多いようです。

差し引かれる金額については幅がありますが、統計上、一般的に負担している住居費の額を差し引くという方法が理論的であると思われ、そのような考え方に立つ裁判例も複数あります。

妻の収入が200万円を切る程度ですと、統計上の住居費の額はおよそ3万円となります。

双方の収入から弾き出した婚姻費用が10万円であれば、そこから3万円を差し引き、7万円を支払ってもらうということになります。

なお、私は、過去に担当した調停で、裁判所から「ローンを折半する」、つまり、ローンの半額を差し引くという案を提示されたこともあり、この辺りはまだ扱いが固まっていない部分があります。

 

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弁護士 深堀 知子

 

 

子どもとの面会を強制的に実現することはできる?

離婚後、別れた妻が調停や審判で決められたとおりの面会をしてくれない、

あるいは逆に、いろいろな事情があって面会に応じたくない、というご相談をよくお聞きします。

今日は、調停や審判で決定した面会に応じない場合、面会を強制的に実施させることはできるのかどうかという点を考えてみたいと思います。

 

まず、子どもを無理やり引っ張ってきて面会させるということはできません。

そもそも、面会は主に子どもの健全な成長を期して行われるものですが、無理やり面会を実現させるとすれば(そしてそれが繰り返されれば)子どもの心に傷を残す結果になりかねません。

 

法律上、可能性として残るのは「間接強制」の方法となります。

具体的には、面会に応じなければ1回につき〇〇円の支払義務が生じるという形で金銭的な負担を掛けることによって、間接的に履行を強制するという形です。

過去には、離婚調停の中で面会に応じなければ養育費を支払わないという条項が決められた例もあったようですが、基本的に養育費は他の債務と相殺することができない性質のものですので、こういう決め方は相当ではないと考えられています。

 

しかし、「間接強制」ができるのは、かなり特殊なケースで、普通は間接強制の方法すら取ることができません。

というのも、間接強制を行なうためには、面会の日時、頻度、場所、時間、子どもの引渡方法などが具体的に特定されている必要があるからです(最高裁平成25年3月28日決定)。

普通、調停では、日時、場所、子どもの引渡方法などについては「当事者間の協議によって定める」という形で記載されるにとどまり、その中身は漠然としています。

頻度については明記される例がほとんどではあるものの、その書き方は月1回「程度」というように幅を持たせています。

こういう決め方では、実際に履行がなされなくても間接強制に訴えることはできません。

これは、面会は両親の協力に行われてこそ子どものためになるものであり、間接強制が頻発する事態は望ましくないという考え方が背景にあるからだと思われます。

 

上記に引用した最高裁の事例では間接強制が認められているのですが、この事案では下記のとおりかなり詳細に面接交渉の条件が定められていました。

(1) 月1回、毎月第2土曜日の午前10時から午後4時まで

(2) 場所は父の自宅以外の父の定める場所

(3) 子の受渡し場所は父の自宅以外で協議して決めるが、協議が整わないときは所定の駅の改札口付近

(4) 母が面会開始時に受渡場所で子を父に引渡し、父は面会終了時に受渡場所で子を母に引き渡す

(5) 母は、引渡し時以外には面会に立ち会わない

 

なお、この事案では、母は、「子どもが面会を拒否している」と主張していました。

しかし、最高裁は、子どもの意思は調停ないし審判の際に織り込み済みなので、それを理由に面会を拒否できるものではない、と言っています。

もっとも、子どもの気持ちが変化し、面会したくないと考えている場合には、再度、調停や審判を申立てて、以前の内容を変更してもらうことができます。

 

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            堺けやき法律事務所  弁護士 深堀 知子