免責不許可の具体的事例について

 

破産手続においては、免責決定をもらうことによって法的な支払義務から解放されるという仕組みになっています。

したがって、自己破産を申し立てる人にとっては、免責許可を得ることが破産手続きの主たる目的となるのですが、免責を得られないケースがあります。

 

免責不許可の事例として多いのは下記の2つに該当する場合であると言われています。

※ 浪費や射幸行為によって著しく財産を減少させた

※ 重要財産開示義務や説明義務に違反した

射幸行為というのは日常的には使わない言葉ですが、ギャンブルや宝くじなどを指します。

 

特に、具体的な事例を見ますと、

① 支払不能になってから浪費等の行為があると、悪質性が高いと評価される

② 破産管財人に対する説明義務の履行を拒む、もしくは債権者集会を欠席するということは絶対にしてはならない

ということが分かります。

 

浪費・射幸行為について

 

浪費や射幸行為で財産を減少させることは、法律上、免責不許可事由として挙げられていますが、悪質性が強くなければ、裁量による免責が認められています。

免責判断の基準として考えられるのが、ひとつは金額の大きさです。

絶対的な金額もそうですが、収入や負債額と比べて浪費の比率が高いかどうかということもポイントになります。

また、一応の余裕があるときに浪費をするならまだしも、いよいよ破産しかないという状況になっても浪費等を続けている場合には、悪質性が強いと判断されます。

つまり、弁護士に依頼した後、もしくは、支払いをストップした後には、浪費やギャンブルはスッパリと止めていなければならず、この後に及んでもなお浪費を止められない場合には、免責を受けることは難しいと言わざるを得ません。

 

具体的には、支払不能後(またはそれに近い時期)に約50万円の浪費をした事例で、免責不許可決定がなされています。

もっとも、この事例では破産宣告を受けるのは2回目で、破産決定後にもブランド物を買うなどの事情があったようです。

また、浪費額が約1億円ときわめて高額な事例では、破産者が反省して手続に協力したなどのプラスの事情があっても、やはり免責は不許可となっています。

 

説明義務違反、債権者集会への欠席

 

破産管財人からの質問に応答しない、あるいは曖昧な答えで誤魔化す

ウソの説明をする

債権者集会を欠席する

という行為は致命的であり、免責不許可事例のかなりの割合を占めています。

上記のような行為をする破産者は、たいてい、他にも免責不許可事由にひっかかる行為をしており、それに関連する質問を逃れるために無視したり、集会を欠席したりするわけです。

しかし、質問を無視して逃げるという態度は最悪であり、その態度自体が決定的なマイナス評価となります。そんな態度を取るくらいなら、破産申立てをしない方がマシです。

私自身が過去に関わった事件でも、1件だけ、破産決定直後から破産者が行方不明になった事例がありました。こうなると、どう転んでも免責不許可にしかなりません。

たとえ免責不許可事由があっても、破産手続きに誠実に対応することによって、免責が許可されている事例はたくさんあります。

特に免責不許可事由がある方は、破産管財人への説明や集会への出席の重要性をしっかり認識して手続に臨んでいただきたいと思います。

 

※参考文献 「自由と正義」2017年8月号 54頁以下

 

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堺けやき法律事務所 弁護士 深堀 知子

住宅ローンを支払っている場合の婚姻費用

今日は、夫が持ち家を出て別居しており、自宅に妻が住み続けているというケースを考えます。

この場合、夫が住宅ローンを支払いを止めますと自分の信用履歴にキズが付きますので、夫はローンだけは支払い続けることが多いです。(金銭的な余裕がない場合は別として。)

この状態で、妻から夫に婚姻費用(生活費)の請求がなされた場合、住宅ローンを支払っているという事実はどのように反映されるのでしょうか。

 

例えば、双方の収入から弾き出した婚姻費用として月額10万円が相当と考えられる場合に10万円のローンを払っていたら、

●婚姻費用としてはゼロと考えるのか

●ローンは生活費とは無関係なので10万円を支払うべきなのか

どちらになるのでしょうか。

 

住宅ローンというのは、家賃とは違って純粋に住宅費となるものではなく、その中身は借金の返済です。

借金の返済が終わったら、住宅が名実ともに自分のものになりますので、ローンの支払いは財産形成のためのものであり、生活費にはならない、という考え方もできます。

しかし一方で、夫が住宅ローンを払っているからこそ妻が自宅に住むことができ、住居費の支払いをしなくて済んでいることも事実です。

 

これをどのように処理するかということについてはいろいろな考え方が成り立ちますが、

一般的には、「ローンの一部を婚姻費用から差し引く」ことが多いようです。

差し引かれる金額については幅がありますが、統計上、一般的に負担している住居費の額を差し引くという方法が理論的であると思われ、そのような考え方に立つ裁判例も複数あります。

妻の収入が200万円を切る程度ですと、統計上の住居費の額はおよそ3万円となります。

双方の収入から弾き出した婚姻費用が10万円であれば、そこから3万円を差し引き、7万円を支払ってもらうということになります。

なお、私は、過去に担当した調停で、裁判所から「ローンを折半する」、つまり、ローンの半額を差し引くという案を提示されたこともあり、この辺りはまだ扱いが固まっていない部分があります。

 

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弁護士 深堀 知子

 

 

子どもとの面会を強制的に実現することはできる?

離婚後、別れた妻が調停や審判で決められたとおりの面会をしてくれない、

あるいは逆に、いろいろな事情があって面会に応じたくない、というご相談をよくお聞きします。

今日は、調停や審判で決定した面会に応じない場合、面会を強制的に実施させることはできるのかどうかという点を考えてみたいと思います。

 

まず、子どもを無理やり引っ張ってきて面会させるということはできません。

そもそも、面会は主に子どもの健全な成長を期して行われるものですが、無理やり面会を実現させるとすれば(そしてそれが繰り返されれば)子どもの心に傷を残す結果になりかねません。

 

法律上、可能性として残るのは「間接強制」の方法となります。

具体的には、面会に応じなければ1回につき〇〇円の支払義務が生じるという形で金銭的な負担を掛けることによって、間接的に履行を強制するという形です。

過去には、離婚調停の中で面会に応じなければ養育費を支払わないという条項が決められた例もあったようですが、基本的に養育費は他の債務と相殺することができない性質のものですので、こういう決め方は相当ではないと考えられています。

 

しかし、「間接強制」ができるのは、かなり特殊なケースで、普通は間接強制の方法すら取ることができません。

というのも、間接強制を行なうためには、面会の日時、頻度、場所、時間、子どもの引渡方法などが具体的に特定されている必要があるからです(最高裁平成25年3月28日決定)。

普通、調停では、日時、場所、子どもの引渡方法などについては「当事者間の協議によって定める」という形で記載されるにとどまり、その中身は漠然としています。

頻度については明記される例がほとんどではあるものの、その書き方は月1回「程度」というように幅を持たせています。

こういう決め方では、実際に履行がなされなくても間接強制に訴えることはできません。

これは、面会は両親の協力に行われてこそ子どものためになるものであり、間接強制が頻発する事態は望ましくないという考え方が背景にあるからだと思われます。

 

上記に引用した最高裁の事例では間接強制が認められているのですが、この事案では下記のとおりかなり詳細に面接交渉の条件が定められていました。

(1) 月1回、毎月第2土曜日の午前10時から午後4時まで

(2) 場所は父の自宅以外の父の定める場所

(3) 子の受渡し場所は父の自宅以外で協議して決めるが、協議が整わないときは所定の駅の改札口付近

(4) 母が面会開始時に受渡場所で子を父に引渡し、父は面会終了時に受渡場所で子を母に引き渡す

(5) 母は、引渡し時以外には面会に立ち会わない

 

なお、この事案では、母は、「子どもが面会を拒否している」と主張していました。

しかし、最高裁は、子どもの意思は調停ないし審判の際に織り込み済みなので、それを理由に面会を拒否できるものではない、と言っています。

もっとも、子どもの気持ちが変化し、面会したくないと考えている場合には、再度、調停や審判を申立てて、以前の内容を変更してもらうことができます。

 

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            堺けやき法律事務所  弁護士 深堀 知子

 

 

 

 

賃貸物件を相続したとき、賃料は誰のもの?

本日は、相続財産の中に、賃貸用の不動産が含まれている場合について説明します。

 

例えば、貸しビルを所有していた父が亡くなり、相続人は子どもが兄と妹の2人で、双方がビルを欲しがってなかなか決着がつかなかったとしましょう。

そうしている間にも、日々賃料は発生していきます。

いったいこれは誰のものなのでしょうか?

 

これについては、最終的にビルを取得した人が遡って賃料も全部取得する、という考え方もできます。

しかし、最高裁の判例では、遺産分割が正式に決まるまで、賃料は、相続人全員が相続分に応じて受け取ることができる、という考え方が採用されています(平成17年7月11日判決)。

 

つまり、上の例で言うと、相続分はそれぞれ2分の1ずつなので、賃料が月100万円だとすると、ひとり50万円ずつを受け取れる、ということになります。

そして、遺産分割は、相続が始まった時(死亡時)に遡って効力を発生するものとされているのですが、最高裁の考え方によれば、これは遺産から発生した賃料には適用されず、いったん受け取った賃料を返す必要はありません。

上の例で言いますと、1年間揉め続けた挙句、最終的に兄がビルを取得することに決まった場合、妹は、それまでにもらった賃料月50万円×12カ月分をそのまま自分のものにできる、ということです。

 

そして、基本的には、賃料は、遺産分割の手続を要せず、直接、相続分に応じて分割されるものと理解されているので、理論的には、相続人がそれぞれ自分の分を行使することができます。

実際には、テナントに相続争いを見せつけるのは好ましくないので、相続人の誰かが代表で賃料を受け取り、分配方法を合意することが多いと思いますが、法律上は、兄、妹のそれぞれが50万円ずつをテナントに請求することも可能です。

 

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堺けやき法律事務所 弁護士 深堀 知子

更新のない建物賃貸借契約を締結したいとき

通常、建物の賃貸借は期間が満了してもさらに更新されることが原則で、一度貸すとなかなか返してもらえないのが実情です。

そこで、転勤中に限って住宅を貸したい場合など、一定期間の後に必ず返してもらいたい場合には、

定期建物賃貸借」を選択することをお勧めいたします。

ただし、定期建物賃貸借にはいくつか条件があります。

※参考条文 借地借家法38条

 

公正証書など、書面によって契約を行なうこと

法律上は書面による契約であれば有効で、必ず公正証書を作らなければならないわけではありませんが、確実を期すため、多くの場合で公正証書が作成されています。

 

賃借人に対し、「契約の更新がない」ことを説明した書面を交付すること

定期建物賃貸借は、通常の契約と異なって契約の更新がないこと、期間の満了によって建物の賃貸借契約が終了することについて、説明を記載した書面を渡した上で説明を行なう必要があります。

この書面交付がないと、たとえ、両当事者が納得していたとしても、契約の更新がないという約束は無効になりますので、十分気を付ける必要があります。

契約の際は、説明の書面を渡した上で、賃貸借契約書の中に「書面を確かに受け取った」という一文を入れておくと確実です。

しかし、そのような一文があっただけで、実際に説明の書面を渡していない場合には、書面を交付したものとは認められません(最高裁平成22年7月16日判例)ので、この部分については厳格に手続きを踏んでおかなければなりません。

 

賃借人に対し、契約期間満了前に、契約が終了する旨の通知を行なうこと

さらに、賃貸借契約が終わる1年前から6か月前の間に、賃貸人から「期間が満了すると同時に賃貸借契約は終わりますよ」という通知を送る必要があります。

契約書に明記してあるので自明のことではあるのですが、法律上は、さらに念を入れて注意喚起することが求められているのです。ただし、契約が1年未満の場合には通知の必要はありません。

この通知を送らないと、期間が満了しても契約が終了したことを主張することができません。

うっかりと通知を忘れてしまった場合、通知をした時点から6か月を経過すれば、期間満了を主張して明け渡しを求めることができます。

 

当事務所では、賃貸借契約に関するご相談や契約書の作成を承っております。

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堺けやき法律事務所 弁護士 深堀 知子

証拠の重要性について

民事事件では、双方の言い分が180度違うことが珍しくありません。

例えば、事故の瞬間、信号が何色だったかで争われるケースは、皆さんが想像するより遥かに多いです。

故意に噓を言っている場合もありますが、思い込みや記憶違いもあります。

 

では、そのような場合、どうやってどちらが正しいのか見分けるのでしょうか。

 

【1】物的な証拠

一番価値があるのは、誰が見ても動かせない、物的・客観的な証拠です。

上の例であれば、ドライブレコーダーの画像があれば、ほぼ疑いの余地はありません。

契約上のトラブルのケースでは、契約書などの書面がモノを言います。

 

【2】人的な証拠

証拠として「証言」が用いられることもあります。

上の例で、物的な証拠がなく、たまたま通りかかった第三者が信号の色を証言してくれたとすれば、その証言に基づいて事実が認められるでしょう。

実際のところ、人間の認識や記憶というのは当てにならないところがあり、物的な証拠ほど正確ではありません。

しかし、裁判では、「裁判に出てきた証拠だけを元に、できる範囲での事実認定をする」というのが基本であり、第三者が赤と証言すれば赤という認定になる可能性が非常に高いです。

なぜなら、裁判の結果がどちらに転んでも、第三者にとっては得にも損にもなりませんので、ウソをつく理由がない、と考えられるからです。

 

では、第三者が2人いて、双方の証言が食い違っていたらどうなるでしょうか?

 

その場合は、「どちらの証言がより信用できるか?」という話になります。

信用性の判断は、供述の態度も含めた総合的なものになりますが、主なポイントを挙げておきましょう。

 

・質問に対する答えが一貫しているか

→ほんとうに記憶しているなら、何度聞かれても同じ答えになるはずなので、同じ内容の質問をされたときに、違う答えを言う証人は信用性が低いと判断される

 

・答えが具体的か

→実際には見ていないのに見たかのように証言する人は、細部を聞かれると言葉に詰まるものなので、あいまいに濁す証人は信用性が低いと判断される

 

・筋の通った答えになっているか

→ふつうはそんなことをしないでしょう、というような不合理な内容を証言して、その理由を説明できない証人は信用性が低いと判断される

 

・他の証拠と証言の内容が合っているか

→例えば、事故当日雨が降っていたことが明らかなのに晴れだったと証言する証人は、他の部分についての証言も怪しい(信用性が低い)と判断される

 

・その証人の立ち位置

→原告、被告のどちらかと特別な関係にある場合や、その証言が証人本人の利益に関係する内容である場合には、もちろん、自分の側に有利になるように証言する可能性が高いので、その点を割り引いて評価しなければならない。

 

法的な問題を解決するにあたっては、証拠の有無が結果に直結します。

ご自分では関係がないと思っていても、実は重要な証拠になることもありますので、ご相談の際は、是非、すべての資料をお持ちいただきますようお願いいたします。

 

堺けやき法律事務所 弁護士 深堀 知子

相手方と連絡が取れない場合の相続手続き

不動産や預貯金の相続手続きをしようとしたときに、相続人の中のひとりと連絡が取れず、どうにもならなくなることがあります。

このような時にどうしたらよいのか考えてみます。

 

【1】 相手方の住所は分かるが、返事をしてくれない場合

 

相手方が住んでいる場所が分かるときには、遺産分割の調停を申立てます。

直接の連絡には返事をくれなくても、裁判所からの呼出しであれば応じるというケースもあります。

裁判所の呼出しにすら返事をくれない時には、裁判所が「審判」という形で結論を出してくれます。

「審判」をもらうためには、住民票を提出するのはもちろんのこと、相手方の住所地まで行き、表札があるか、電気のメーターは回っているか、夜間に電気が付いているかなど、実際に住んでいるかどうかの調査を行い、確実に住んでいることを裁判所に報告しなければなりません。

 

【2】 相手方の住所が分からない場合

 

まずは、手を尽くして相手方の住所を調べます。

住民票を確認し、分かる限りの親族・友人・知人に連絡先を尋ねます。

しかし、それでもどうしても住所が分からない場合には、家庭裁判所に「不在者の財産管理人」の選任の申立てを行い、本人に代わって、財産管理人に遺産分割に参加してもらいます。

それによって、不動産の相続登記等が可能になりますが、財産管理人は、本人に不利な行動をすることができないので、必ず、法定相続分以上を取得する形での遺産分割を行わなければなりません。

不在者の財産管理人選任の手続は、遺産分割の手続とは別個のものであり、費用も別途発生します。

 

当事務所では、相続に関する御相談をお受けしております。

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堺けやき法律事務所 弁護士 深堀 知子

 

フリマアプリの取引での商品紛失

最近、スマホのフリマアプリが爆発的に浸透して誰でも簡単に中古品の売買ができるようになり、ますますネットを介して商品売買を行なう人が増えました。

ネット上の取引は、相手と会って商品とお金を交換するのではなく、商品を郵便などで送りますので、「送ったのに届かない!」というリスクが付きまといます。

送料を節約するために普通郵便を利用するケースも多く、その場合には追跡が不可能です。

では、商品が行方不明になった場合、どのように解決したらよいのでしょうか。

 

「フリマアプリで商品を販売し、普通郵便で発送したのに、いつまで経っても届かないと言われた」

「郵便局に調査を依頼したが、分からないと言われた」

というケースを考えてみます。

 

民法上、これは「危険負担」の問題となります。

「危険負担」というのは、どちらの責任ともいえない理由によって目的物がなくなってしまったり、壊れてしまった場合に、そのリスクを誰が負担するのか、というお話です。

民法上は、「特定物」の場合には、リスクを負うのは「債権者(この場合は購入した人)」である、と規定されています(民法534条)。

「特定物」というのは読んで字のごとく、この商品!と特定されたモノのことです。

フリマアプリで取引するのは中古品がほとんどで、ここにあるこの商品!と特定されていますので、原則として「特定物」になると考えられます。

 

・・・ちょっと法律用語が入り混じって分かりにくいですね。

翻訳しますと、売買契約が成立した後に、不可抗力で商品がなくなってしまった場合には、損をするのは買った側ですよ、ということです。

火事が延焼して商品が燃えてしまった場合、運送途中で運送業者の過失により商品を紛失した場合などには、購入者は、商品は受け取れなくても代金を支払わなければなりません。

 

では、発送したのに届かない、というトラブルが発生した時には、発送はしたんだから私の責任じゃない、代金を払って!と言えばいいのでしょうか?

実際には、もうひとつ大きなハードルがあります。

「発送した」ことを証明できるかどうか?という問題です。

そもそも、発送すらしていないのであれば、単に、売った人が債務を履行していないだけですので、当然ながら代金を請求することはできません。

「発送した」のか、していないのか、それを証明できるのか、が大きな分かれ道となります。

 

きちんと記録が残る方法で発送していればこの問題はクリアできますし、それ以前に、郵便局や運送業者に損害を請求する形で解決することができるでしょう。

しかし、普通郵便など、記録が残らない方法で送付していると、発送したことを証明するのは至難の業。

結果として、代金の請求もできない、ということになることが多いと思われます。

購入者が受け取っているのに届かないと嘘を言うケースも想定されますが、送ったかどうかが分からない以上、売った人に不利に判断される可能性が高いです。

したがって、普通郵便などを利用する場合には、代金を請求できなくなるリスクがあると覚悟して取引をした方がよさそうです。

 

郵便の正確性に関しては、日本は世界一といっていいほどだと思いますが、稀に事故も発生しますし、上記のとおり噓を付く購入者がいることも否定できません。

フリマアプリは高校生など未成年者が利用することも多いようで、リスクについては思いが及ばず、トラブルになるケースが多いように見受けられます。

利用者は、紛失のリスクを意識し、できるだけ記録の残る方法で発送するようにすべきですが、それと共に、アプリの運営業者の側も、利用ガイドなどに「記録のない発送方法の場合は代金を請求できなくなることがある」と明記し、リスクを明確にする責務があるのではないか、と考えます。

 

 

 堺けやき法律事務所  弁護士 深堀 知子

 

改正消費者契約法が施行されました

このたび、改正された消費者契約法が施行され、契約を取り消せる範囲が広がるなど、さらに強力な消費者保護を目指した内容となりました。

その背景としては、高齢者が不要なものを次々と買わされたり、ウソの事情を信じ込んで契約したりするような被害が発生しているという状況があります。

今回は、大量に商品を購入した場合の取消しと、虚偽の事由を告げられて購入した場合の取消しについて説明します。

 

● 大量の商品購入の取消し

その消費者にとって「通常の分量を著しく超える(=過量)」ものが取消しの対象となります。

 

過量かどうかは、単に、購入した数だけではなく、購入した物の内容や価格などの取引条件も加味して考えます。

同じ量を買ったとしても、保存食品であれば過量に当たらないものが、生鮮食品の場合には過量に当たることもあります。(期限までに消費しないと価値がなくなるため。)

 

また、それぞれの消費者を基準として考えますので、「過量」に当たるかどうかは、その人のふだんの生活状況によって異なった判断がなされます。

例えば、1人暮らしでふだん外出しない人が、高価な着物を10着も買ったとすれば、それは「通常の分量を著しく超える」ということになります。

しかし、同じような買い物をしたとしても、例えば、その人が芸能人で頻繁に着物を着て外出している人であれば取消しの対象にはなりません。

 

簡単に言いますと、常識的に考えて、「この人が、この物をこんなに買って使い切れるはずがない」と判断される場合には「過量」に当たる可能性が高いです。

ただし、取消しの対象となるのは、事業者から消費者に勧誘をした場合に限られます。自分で勝手に大量買いをした場合には取り消せませんのでご注意ください。

高齢者の方などで、判断能力が衰えて不要なものを大量に買ってしまうおそれがある場合には、成年後見制度のご利用をご検討ください。

 

●虚偽の事由を告げられて購入させられた場合の取消し

従来の消費者契約法では、買ったもの自体についてウソを言われた場合には取消しができましたが、買ったものに関係しないウソに関しては、取消しの対象外となっていました。

例を挙げますと、「騒音が全く出ない掃除機です」と言われて購入したものを実際に使ってみたらかなりうるさかった、という場合には取消しができましたが、「この掃除機を使っていると発火の危険があって危ないから買い換えた方がいい」と言われたが、実際には危険性がなかった場合には、取消しはできませんでした。

 

新しい消費者契約法では、消費者が「発火の危険がある」などと騙されて要らない商品を購入した場合でも、取消しが可能となり、取り消せる範囲が広がりました。

 

消費者契約法により契約を取り消した場合には、

消費者は、購入金額の全額の返還を受けることができます。

仮に、一部を消費してしまった場合でもそれは変わらず、手元に残っているものを業者に返せばよいことになっています。

手元に残っていない場合(破棄した場合など)は、返還する必要はありませんが、転売などをした場合には手元に残った利益分を業者に返還しなければなりません。

 

堺けやき法律事務所  弁護士 深堀 知子

判決と和解の違いについて

訴訟が進んで、概ね主張と証拠が揃った段階になりますと、必ずと言っていいほど和解の場が設けられます。

当事者の方にとっては、和解をするか、判決をもらうかの選択を迫られることになります。

 

和解案を受けた方が良いのかどうか悩む方も多いと思いますが、一番大きな判断のポイントは、「判決になったらどういう結果になるだろうか?」ということです。

訴訟に提出された主張、それを裏付ける証拠を検討して、勝つ見込みがあるのかどうか。

和解をしなくても勝てる可能性が高いのであれば、無理に和解をしなくてもいい、という方向に傾きます。負けそうな気配が濃厚であれば、少額の和解案であっても受け入れた方がいいでしょう。

最近では、裁判官がある程度踏み込んだ心証開示を行なうことが多く、判決の見通しを付けやすいケースが増えていると感じます。

裁判官の心証開示がないケースというのは、かなり微妙で勝敗の見通しが付きにくいことが多いです。そのような場合は、最後まで結果が分かりませんので、敗訴のリスクを避けるために和解を選択するということもあり得ます。

 

しかし、実際の訴訟には、これとは全く別の視点があります。

勝訴したとしても、それを回収できるだろうか?」ということです。

相手方に資力があることが分かっている場合はいいのですが、どんな財産を持っているか不明な場合、あるいは資力がない場合は、たとえ全面勝訴したとしても実際に回収することができないことが多いです。

誤解されることが多いのですが、裁判所は判決を出すだけで、相手方から取り立ててお金を持ってきてくれるわけではありません。

回収するためには、別途、自分で差押えができる財産を探して来て、これを押さえて下さい、という手続をしなければなりません。

したがって、勝訴してもその内容を実現できないという事例が頻発するわけです。

なお、強制執行が可能になるという点においては、判決と和解に違いはありません。

 

和解の場合は、相手方が自分で納得して支払いを約束するので、支払が行われる見込みが高いと言われています。裁判所という公的な場で行なう約束ですので、心理的な強制力も大きいのでしょう。

実際、私が関与した事案でも、和解後に約束を反故にされたというケースはほとんどありません。

長期にわたる支払いの場合は、途中で支払いが止まってしまう例が散見されますが、きちんと支払いを終える例の方が多いです。

 

さらに、もう一つ、和解によって早期に解決ができることもメリットの一つです。

「和解」は終局的な解決であり、それ以上長引くことはありませんが、判決に対しては「控訴」をすることができます。

控訴されると、さらに控訴審の対応に時間と費用を掛けなければならず、負担が大きくなります。

なお、通常、弁護士費用は審級ごとに発生しますので、引き続いて控訴審を依頼する場合には別途着手金をお支払いいただく必要があります。

 

和解の場合は、判決では決めることのできない約束ごとを含める余地がある、という利点もあります。

和解をすることによって、感情的な対立がいくぶんでも和らげられたり、ご自身の中で気持ちの整理が付いたりといった精神的な役割も否定できません。

しかし、和解は強制されるものではありませんし、無理に和解をして逆に納得できない思いを引きずってしまうこともあります。

当事務所では、正しく状況を理解していただき、納得のいくご判断をしていただけるよう、依頼者の皆様をサポートしていきたいと思っております。

 

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