18歳成人と養育費

成人年齢が18歳に引き下げられたことを受けて、従来、20歳までとされてきた養育費の支払いが2年早く打ち切られてしまう、という声が上がっている。

 

そもそも、法律上、「養育費」という名目での規定はなく、何歳まで支払う必要があるかという明文もない。民法上は「直系血族及び兄弟姉妹は互いに扶養する義務がある」という一般的な親族間の扶養義務が定められていて、養育費もこの一環として認められるものと考えられている。

そして、実務上は未成年の間は扶養義務があるという考え方が定着していて、本人が就職するなどして扶養の必要がない場合を除き、20歳の誕生日を迎える月までは養育費を受け取れるという扱いがなされてきた。

この考え方を貫くとすれば、今後は、18歳になったと同時に養育費の支払いが打ち切られてしまうことになる。しかし、現実的には、高校を卒業するまでは自力で生活するのは無理で、成人であっても高校在学中は養育費の支払義務があると考えるべきであり、おそらく、実務上もそのような取り扱いがされると思われる。

 

それよりも問題になるのは大学進学を希望する子の場合で、今まで大学1・2年生の間は受け取れていた養育費が受け取れなくなる可能性が大きい。母子家庭の子どもが大学へ進学する道がますます厳しくなり、進学をあきらめる子が増えるのではないかと危惧する。

もっとも、従来の家庭裁判所の審判例では、父親が大学進学に同意している場合、もしくは、同意していたとみなしうる状況がある場合には大学在学中の養育費支払いが認められることもあった。例えば、親族がみな大学に進学していてそれなりの職につき、父親に経済的な余裕がある場合などである。

しかし、このような考え方によれば、両親は高卒で父親の経済状況はまあまあ、というケースで父親が大学進学に反対すれば、大学進学後の養育費はもらえない。親の意向や事情を優先する一方で、子の意思や将来性は全く考慮されないという結果になってしまう。

 

私は、養育費の支払いは、原則として大学卒業までとするのが相当だと思っている。本来であれば、今回の民法改正とセットで養育費の支払い期間についても法律に明記すべきであった。経済的に厳しい家庭の子の進学を促すため大学の学費無償化の議論がなされていると聞くが、学費の無償化には気が付いても養育費には目が行かないところが、女性議員が驚異的に少ない日本の議会の問題点ではないだろうか。

 

このような考え方に対しては、大学は義務教育ではなく高校と違ってほぼ全員が進学するものでもないから、大学卒業まで親に面倒を見させる必要はない、という反論が予想される。しかし、大学(短大を含む)進学率が5割を超え、就職よりも大学進学が主流になりつつある現在、能力と意欲のある子には高等教育を受けさせるのが親の責務と言える。そもそも養育費の額はそれぞれの親の収入に応じて負担可能な額に設定されており、過重な負担を課すものとは言えない。

 

とは言え、実際に支払いをしている父親の立場になれば、何年も音さたがなく、突然、大学に行くから4年間支払いを延長せよと言われても「はいそうですか」とは答えられないという気持ちも分かる。ある父親は、面会もさせてもらえず、生きているか死んでいるかも分からないのに払い続けるのが馬鹿らしくなった、と言って養育費の支払いを止めてしまい、給与を差し押さえられると仕事も辞めてしまった。

もちろん、養育費は面会をしていないから払わなくてよいというものではないし、養育費の請求は権利であり支払いは義務であって、義務を果たさない父親に非がある。しかし、養育費の支払いは時には20年前後に及ぶ息の長い話であり、モチベーションを保つのが難しくなることがある、ということは受け取る側も意識しておくべきであると思う。

定期的に面会を実施していれば、父親も成長の様子を共有できるので、進学についても理解を得られやすく、ひいては養育費の支払いを受けやすいということにつながる。何らかの事情で面会ができなくても、折に触れて感謝の気持ちを伝え、手紙や写真、メールなどで子の成長を分かちあうという姿勢が必要ではないだろうか。

夫婦別姓と通称の使用

夫婦別姓が合憲かどうかという問題については、最高裁判所が合憲であるという答えを出している(平成27年12月16日大法廷判決)。その中で、最高裁判所は、通称の使用が社会的に広まっていることから、姓を変えることによる不利益は緩和されている、と述べている。

 

しかし、実感として、平成27年の時点では、旧姓使用はまだほんの一部分で認められているに過ぎず、むしろ、この際高裁判決を受けて旧姓使用が飛躍的に進んだと思う。旧姓使用が広く認められている国なんだから夫婦同姓でいいよね、と言ったことで、後からつじつま合わせのように旧姓使用が認められていった。そういう意味で、この判決の影響力は大きかった。

 

法曹界でいえば、弁護士会は、他の期間に先駆けて旧姓使用を積極的に認めており、私が弁護士登録をした平成8年には既に旧姓による登録が可能だったが、裁判所、検察庁では旧姓は使えなかった。それが、最高裁判決が出た後の平成28年9月からは、裁判官が旧姓で判決を出せるようになり、検察官を含む国家公務員も職務上旧姓を使えるようになった。

平成29年7月には、政府が銀行口座を旧姓で開設できるように要請しているというニュースを聞いた。もっとも、その後、実際に銀行が要請に応じたのかどうかまでは確認していない。

 

しかし、銀行口座にしても何にしても、旧姓を使用するに当たって問題になるのは本人確認である。戸籍姓を使用する場合は免許証を提示すれば済むところ、旧姓を使用しようと思えば戸籍謄本(または抄本)をわざわざ取り寄せて提示しなければならない。ちなみに、弁護士の場合、弁護士会が発行する証明書で旧姓の証明をすることができるが、弁護士会は官公庁ではないので通用しないこともある。

戸籍取り寄せの手間もさることながら、戸籍には、両親の氏名、どこで出生したか、いつ誰と結婚したかというような、免許証にはかかれていないきわめてセンシティブな情報が記載されている。これをイチイチ見せなければならないのは、プライバシー保護の面から望ましいことではないと考える。

 

私は、免許証やマイナンバーカードなどに旧姓が併記できるようにすればいいと思っている。そうすれば、もっとずっと簡単に旧姓の証明ができて、旧姓を使うことが当たり前になり、多くの女性が被っている不利益が軽減されていくのではないかと思う。

新しい時効制度について ① ~消滅時効期間

2年後の2020年4月より、改正民法が施行されます。

今までの民法とは大きく異なる点がたくさんありますので、一つずつ確認していきたいと思います。

本日は、消滅時効制度のうち、時効の期間、つまり、何年経ったら時効になるのか?という問題について取り上げます。

 

今の法律では、時効の期間は1年の場合もあれば10年の場合もあり、非常に分かりにくいものとなっています。例えば、売買代金は2年で時効にかかってしまいますが、一般的には知られていないのではないでしょうか。ちなみに、弁護士報酬も2年です。

知る人ぞ知る「裏ワザ」的に「それは時効です!」なんて主張したり、逆に主張されたりしていたのですが、新しい法律では、基本的に「5年」に統一されます。

従来は、不法行為によって発生した債権(交通事故の場合など)は3年だったのですが、これも「5年」になります。

 

新しい民法では、どんな債権でも一律5年、ということになるのですが、この説明は実は若干不正確です。

 

正確に言いますと、時効期間は、

権利を行使できる時から10年

権利を行使できると知った時から5年

で、どちらか早い方になります。

契約上の債権の場合は、「権利を行使できる時=行使できると知った時」になりますので、基本的には5年で消滅します。

「権利を行使できる時≠行使できると知った時」になるのは、例えば、消費者金融への過払金返還請求が該当すると言われております。契約が終了した時点で「権利を行使できる」状態になりますので時効がスタートしますが、過払金が発生しているとは知らないことがあります。この場合、過払金の発生を知った時から5年、もしくは契約終了時から10年のどちらか早い方が時効期間満了日となります。

 

 

また、不法行為のうち、生命・身体の侵害による損害賠償請求権(交通事故で発生した人身損害など)については特則があり、時効期間が長く設定されています。

これは、生命・身体が非常に重要な法益であることや、長期間の治療が必要で損害が確定するまでに時間がかかるケースがあることを配慮したと説明されています。

ただし、権利行使ができると知った時点で、時効期間は5年となります。

 

つまり、生命・身体の侵害による損害賠償請求の場合、

権利を行使できる時から20年

権利を行使できると知った時から5年

となります。

 

なお、現在の民法においても、不法行為債権において不法行為時から20年経過した時には時効消滅する旨の文言があり、期間としては同じなのですが、これは「時効期間」ではなく「除斥期間」と考えられてきました。

「時効期間」は「中断」という事由が発生すると更新されるのですが、「除斥期間」は一切延長が認められません。

新しい民法では、生命・身体の侵害による損害賠償請求権の場合の「20年」が時効期間であることが明記され、「中断」が認められることになりました。

 

堺けやき法律事務所

弁護士 深堀 知子

 

 

新しい消滅時効制度について② ~時効の停止

新しい民法では、時効の中断・停止について分かりやすく整理が行われました。

 

時効の中断とは、時効の進行がリセットされて、またゼロからカウントされること。

これに対して、時効の停止とは、時効の進行が一時的にストップされている状態です。

例えて言うならば、途中まで見ていたDVDを止めて、最初から見るのが「時効の中断」で、

一時停止の状態にしておくのが「時効の停止」というイメージです。

 

例えば、時効の中断の一つとして裁判上の請求(訴訟の提起など)がありますが、

訴訟を提起した段階で時効の進行が一時停止状態となり、訴訟が続いている限りは進みません。

判決が出て、その判決が確定すると、確定した時に時効期間はリセットされ、ゼロからカウントされます。

新民法では、一時停止状態を「猶予」、リセットされる場合を「更新」というように言葉を使い分けて整理していますが、実質的には、現在の民法から大きく変更される部分はありません。

 

実質的に変更されるのは次の2点です。

 

① 天災によって権利が行使できなかった場合の猶予期間が2週間から3か月に

 

大震災等の天災のために、時効が完成する前に権利の行使ができなかった場合、現在の民法では、権利の行使を妨げる事情がなくなった時から2週間と定めています。

しかし、これはあまりにも短いということで、3か月に延長されました。

 

② 話し合いを行なっている場合に時効の進行を止めることが可能に

従来、話し合いで解決しようとしているうちに時効が近づいてくると、時効完成を止めるために訴訟などの法的手続きを執らざるを得ないことがありました。

当事者間の話し合いで解決ができそうなのに、時効のためだけにわざわざ訴訟を提起しなければならないのは不都合だということで、今回、当事者間が協議を行なう旨の合意を書面もしくは電磁的記録で行えば、時効進行をストップすることができるようになりました。

このような合意書が作成されたときは、当事者が別途期間の取り決めをしない限り、合意の日から1年間は時効をストップすることができます。