自動車保険の弁護士費用特約について

皆さんの自動車保険には、弁護士費用特約が付いていますか?

これは、2000年に初めて登場したオプションだということですが、いまではすっかり一般的になりました。

当事務所でも、交通事故の件でご依頼を受ける場合、保険を使われる方が多数派になっています。

 

自動車保険についている弁護士保険特約の中には、自動車による事故限定のものと、自動車事故の他に日常生活上の事故で被害を受けた場合にも使えるものとがあります。

日常生活上の事故とは、例えば、自転車に衝突されてケガをした場合や、マンションの上階からの水漏れで被害を受けた場合などです。

自動車事故の場合には、保険会社と連絡を取る過程で、弁護士費用特約が使えることに気が付くケースが多いようですが、日常生活上の事故ですと、特約があることをすっかり忘れてしまっている場合もあります。

なんらかの事故で被害を受けて、弁護士に相談してみようかな、とお考えの方は、一度、ご加入の保険をご確認下さい。

なお、保険を使う場合、通常、保険会社の指定した弁護士でなければならないということはなく、ご自身で自由に弁護士を選定することができます。

 

以上の自動車保険の弁護士費用特約に対して、2013年より、弁護士費用をメインに据えた保険が発売されています。

日本では、このような保険を取り扱っているのは「プリベント少額短期保険株式会社」の「Mikata」という商品のみだということですが、今後、他の保険会社でも取り扱うようになるかもしれません。

 

「Mikata」では、自動車事故や日常生活上の事故に限定されず、離婚や相続、職場のトラブルなど、広く民事事件一般について、弁護士費用が支払われます。

対象となる法律事務所は一切限定されず、全国どこの法律事務所でもOKとのこと。

 

こういう保険に入っていたら万が一の時も安心ですが、保険料はいったいいくらなんでしょうね。

プリベントのホームページによれば、保険料は月額2,980円(変更される可能性もあり)。

年間約3.6万ですね。これを相当とみるか、高いとみるか…

なお、この保険は個人が対象で、法人は加入できません。また、個人であっても、事業活動上のトラブルの場合は法律相談料のみが支払われるとのことです。

 

以上の内容を含め、詳しい条件がプリベントのホームページに載っていましたので、加入を検討される方は、こちらをすみずみまでよく読んでみることをおススメします。

 

 

個人再生手続きのメリット

個人の借金を整理する方法の一つとして、個人再生があります。

自己破産の場合は、最終的に借金の支払義務がなくなりますが、個人再生では、ある程度の金額を分割弁済するという形での解決となります。

時々、自己破産はイメージが悪いので再生手続きをしたい、と言われる方がいらっしゃいますが、3年から5年にわたり返済をしなければなりませんので、それが可能かどうかしっかり見極めてから手続を選択すべきです。

次に述べるような住宅を守りたいという事情もなく、破産することにより特に具体的なデメリットもない場合には、自己破産が適しているケースが多いです。

 

個人再生の最大のメリットは、自己破産と違い、住宅ローン付きの自宅を保有し続ける道がある点です(住宅資金特別条項の利用)。

どうしても自宅を手放したくないと考える方に是非ご検討いただきたい手続ですが、これにはいくつか条件があります。

 

●「自宅」であることが必要なので、自宅以外の持ち家には使えません。

ただし、一時的に単身赴任等で家を離れている場合は問題ありません。また、一部を店舗として使用していたり、二世帯住宅である場合でも、本人が住宅として使っている部分が建物の床面積の2分の1以上であれば問題ありません。

 

●自宅に住宅ローン債権以外の抵当権が付いていると、住宅資金特別条項は使えません。

 

●マンション管理費の滞納がある場合も住宅資金特別条項は使えません。

 

●住宅ローンを延滞したため、保証会社が代位弁済を行い、6か月が経過してしまうと住宅資金特別条項は使えません。

なお、住宅ローンを滞納してしまっている場合には、銀行の同意がないと手続きが進められないケースが多いので、事前に、銀行と弁済方法を協議して、銀行の了解を取り付けておく必要があります。

 

当事務所では、自己破産、個人再生、任意整理などの借金問題に関するご相談をお受けしております。

お気軽にお問い合わせください。

 

 

給排水のための私道等の使用について

土地の位置によっては、配水管や下水道に接続するために、他人の土地の下を通らなければならないことがあります。

そのようなときは、土地の所有者に同意をもらうのが普通ですが、何らかの事情により同意をもらえない場合があります。

同意が得られない場合には、土地を使わせてもらうことはできないのでしょうか。

 

この点、下水道に関しては、下水道法11条1項には次のように規定されています。

「前条第一項の規定により排水設備を設置しなければならない者は、他人の土地又は排水設備を使用しなければ下水を公共下水道に流入させることが困難であるときは、他人の土地に排水設備を設置し、又は他人の設置した排水設備を使用することができる。この場合においては、他人の土地又は排水設備にとつて最も損害の少い場所又は箇所及び方法を選ばなければならない。 」

 

また、民法には、次の条文があります。

●土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。(民法209条1項第1文)

●他の土地に囲まれて行動に通じない土地の所有者は、行動に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。(民法210条1項)

●高地の所有者は、その高地が浸水した場合にこれを乾かすため、又は自家用若しくは農工業用の余水を排出するため、公の水流又は下水道に至るまで、低地に水を通過させることができる。(民法220条1項第1文)

 

判例においては、これらの条文を類推適用して、他人の土地を通して下水道、ガス、電気や電話など、生活に必要不可欠な設備を導入することが認められています。

元々、私道としての使用が予定されている土地の場合には、黙示的に地役権が設定されたと解釈し、地役権の内容の一つとして、上下水道の設置を含むという解釈を取ることも可能です。

もっとも、実際には土地を使う予定がないのに配管だけを求める場合や、他に方法がある場合には、必要性がないとして使用が認められません。

また、土地の使用は、必要最小限度に留めなければならないことは当然です。

 

土地使用の承諾が得られない場合には、土地の所有者にこのような法律や判例の存在を説明して承諾していただくのが一番ですが、

どうしても承諾してもらえないならば、訴訟を提起して、土地を使用する権利の確認を求めたり、工事の妨害を禁止する旨の決定をもらったりする手続が必要となります。

 

当事務所では、土地使用に関する御相談をお受けしております。

お気軽にお問い合わせください。

 

 

 

 

養育費の減額請求

養育費とは、離婚の時に合意した金額が成人まで当たり前に続くものではなく、それぞれの生活状況や収入が変化した場合には増減を求めることができます。

養育費の支払いは長ければ20年近くに及ぶものですから、最初に決めた養育費が不相当になることはままあります。

養育費を支払っている側(主に父親)が病気をしたり職を失ったりして、当初の養育費を支払わせるのは酷だという状態になることもあり、そのような場合に養育費の減額が認められることがあります。

逆に、父親が出世して収入が上がり、それに伴い増額を求めるというケースもあり得ます。

 

よく、無職になったら直ちに養育費がゼロになるのですか?と聞かれることがありますが、必ずしもそうではありません。

心身ともに健康で、仕事をしようと思えばできる状態にある場合は、就職したとすれば得られるであろう収入を推定し、それを元に養育費の支払義務が定められます。

したがって、転職のために一時的に無職になった場合などでは、養育費の減額が認められる可能性はほとんどありません。

これに対し、病気などで全く働けず、将来的にも改善する見込みがない場合には、養育費の支払いがゼロ、あるいはそれに近い金額になることもあるでしょう。

また、再婚相手が産休・育休のため働けず、養育費の支払いがきついと父親が養育費の減額を求めたケースで、再婚相手が仕事を休んでいる期間だけ養育費の減額を認めるとされたこともあります。

 

さらに、離婚当初に、一般的に妥当とされる範囲を超える法外な養育費を約束したが、実際にはとても支払不可能であったというケースにおいて、減額が認められたこともありました。

養育費の減額には、「事情の変更」という要件を満たす必要があります。

このケースでは、特に離婚前後で収入が大きく変わったわけではなく、特別に「事情の変更」があったようには見受けられませんが、現実にはそれを支払わせると父親の生活が成り立たないほどの高額であったことから、当事者間の公平を考えて減額を認めたものと思われます。

 

養育費の減額は、収入の減少があれば自動的に認められるというものではなく、積極的に減額を求めていく必要があります。

特に、家庭裁判所の調停・審判・裁判、もしくは公正証書で養育費を決定している場合には、放置しておくとその書面に記載された金額で強制執行されるおそれがありますので、減額を求めたい場合にはできるだけ早期に調停の申立てを行なうことをお勧めします。

 

当事務所では、女性弁護士が養育費に関するご相談をお受けしております。

お気軽にご相談ください。

 

 

 

離婚と不貞の相手方への慰謝料を請求したいとき

不貞を理由とした離婚の件のご相談で、

夫には離婚を請求し、相手の女性には慰謝料を請求したいが、それぞれ相手が違うので、別々に進めなければなりませんか?

というご相談がありました。

 

昔の法律では、主張する権利の性質が異なるので、併せて一つの訴訟にすることはできないという考え方が採られておりましたが、

現在の人事訴訟法では、一挙に解決できるようになっています。

したがって、1件の訴訟の中で、夫と相手の女性の2人を被告にして、離婚と慰謝料請求を行なうことが可能です。

離婚も慰謝料請求も同じ事実関係を立証することになりますので、1つの手続の中で解決できるのは当事者の負担を軽くすることになります。

 

しかし、必ず一緒にしなければならないわけではなく、離婚の裁判を起こした後に、別途、女性への慰謝料請求をすることもできます。

離婚訴訟の中では、不貞行為についてだけではなく結婚生活全般について主張立証が行われるのが通常ですので、不貞行為と関係のないことを相手の女性に全部知られるのは抵抗がある、という場合もあると思います。

そのような場合には、二度手間になり費用もかかりますが、別々に手続をする道もあります。

 

なお、離婚の請求は、訴訟を起こす前に必ず調停を経なければならないこととされていますが、不貞相手への慰謝料請求にはそのようなルールはなく、直接訴訟を起こすことも可能です。

 

当事務所では、離婚や慰謝料請求に関するご相談をお受けしております。

お気軽にお問い合わせください。

 

 

夫が住宅ローンを払っている場合の婚姻費用

世間では、夫名義で住宅を購入し、住宅ローンも夫の名義にすることが多いですが、別居の時には住宅ローンが重い課題として残ります。

 

子どもの通学などの関係で、妻と子どもが自宅に残り、夫が出ていくという形で別居することも多いですが、その場合、夫が妻に対して支払う婚姻費用はどのように計算すればいいでしょうか。

 

住宅ローンの支払いは住宅取得のためであり、ローンを完済した暁には自宅が夫のものになりますので、ローンの全額を婚姻費用から差し引くのは不公平です。

しかし、夫は住宅を使用できない状態であるのに対し、妻は住居費の負担を免れているのは明らかで、これを全く考慮しないとなれば、夫はかなりの出費を強いられることとなります。

 

具体的に婚姻費用から差し引かれる金額は、双方の収入、妻が自宅居住を希望する理由、住宅ローンの返済額などのいろいろな事情を考慮した上で、公平な金額になるよう、ケースバイケースで決定されますが、

過去のケースでは、住宅ローンの半額を婚姻費用から差し引くという形で解決したことがありました。

 

以上は持家で住宅ローンを支払っている場合の考え方ですが、

賃貸住宅で家賃を支払っている場合には、その支払いにより夫が資産を形成するという面はありません。

したがって、夫が家賃を支払っていて、妻のみが自宅に居住している場合には、家賃の額全部が婚姻費用から差し引かれるのが原則です。

 

当事務所では、婚姻費用や養育費に関する御相談をお受けしております。

お気軽にお問い合わせください。

 

再婚した場合の養育費支払い

元夫が元妻に子どもの養育費を支払っているケースで、元夫が再婚し、再婚相手(専業主婦)との間に子どもが生まれたとします。

この場合、元夫が元妻に払う養育費はどのように計算されるでしょうか。

 

元夫が扶養すべき家族は、元妻との間の子供だけではありません。

再婚相手とその子どもに対しても扶養義務を負っています。

扶養家族が増えたことにより、養育費の額は再婚前よりも少なくなります。

 

成人である再婚相手の生活費の指数を生活保護基準によって計算すると、0歳から14歳の子どもの場合とほぼ同じ数字になります。

つまり、計算上、元夫は子ども3人を扶養する義務があるとの同じことになります。

冒頭に挙げた例の場合、養育費算定表で、子ども3人の表を利用して金額を求め、その3分の1が元妻との間の子に対する養育費ということになります。

 

例えば、元夫の給与収入が年500万円、元妻の給与収入が年100万円、子どもは0~14歳が1人としますと、

再婚前の養育費は4~6万円ですが、

再婚して冒頭に挙げた例のような状況になると、子ども3人の表で見ると8~10万円であり、1人当たりは3分の1ですので約2.7万円~3.3万円になります。

 

しかしながら、再婚したことを理由に養育費の減額を請求できるかというと、いったん調停などで決めた金額を変更するのは簡単ではなく、

自らの意思で再婚して扶養家族を増やしていることや、収入に変化がなく十分に養育費の負担が可能なことなどを理由に、減額が認められなかったケースもあります(熊本家裁平成26年1月24日審判)。

 

また、逆に、元妻が再婚して子が再婚相手と同居している場合でも、養子縁組をしない限りは扶養義務が発生しませんので、養育費の決定に当たって再婚相手の収入が考慮されることはありません。

これに対し、養子縁組をしますと養親(再婚相手)に扶養義務が生じます。

しかも、養子縁組をしたからには、養親の扶養義務が第一次的であり、まずは養親が自分の収入で養子を育てるべきだとされています。

したがって、養親に十分な収入がある限りは、元夫は養育費の支払義務を負うことはありません。

 

当事務所では、女性弁護士が養育費に関する御相談をお受けしております。

ホームページからのお問い合わせも可能ですので、お気軽にご利用ください。

養育費の一括払いの危険性

日本では、親の離婚後に養育費が支払われているケースは全体の約2割に過ぎないと言われています。

残念ながら、日本にはまだ国が強制的に養育費を徴収するシステムはなく、養育費支払いと回収は、個人的に処理すべき問題だとされています。

そんなニュースを聞くと、「将来支払われなくなる可能性が高いなら、今、まとまった金額をもらっておきたい」と考えたくなりますし、実際、そのような要望を出される方は多いです。

 

しかし、養育費は日々発生するものであり、将来の分を先取りすることは認められていません。

相手方が支払いに同意すれば一括払いで受け取れることもありますが、それはごく稀なケースです。

 

養育費の一括払いは、次のようなリスクをはらみます。

 

(1) 贈与税が課税される危険性がある

税務上、養育費の一括払いは贈与とみなされる可能性があり、受け取った側に多額の課税がなされるおそれがあります。

例外的に、信託を利用すれば課税の対象にはなりませんが、別途手続を取らなければなりません。

 

(2) 将来的に再請求される可能性は残る

「成人までの養育費を一括払いで渡せば、今後一切請求は来ないのですか?」と質問されることがありますが、そういうわけではありません。

一括払いで支払った金額が少なく、子どもにとって不利益だと判断される場合には、将来的に追加での支払いが認められることもありますし、

子どもや双方の親の状況の変化によって、養育費を増額するように命じられることもあります。

したがって、敢えて一括払いを選択する場合には、今、一括のつもりで支払っても、将来、また支払いをする必要が生じるかもしれないというリスクを十分認識しておく必要があります。

 

当事務所では、女性弁護士が離婚・養育費等の相談に応じております。

お気軽にご相談ください。

 

 

会社に損害を与えた時の労働者の責任

例えば、誤ってバイト先の物品を破損してしまった場合。

あるいは、会社の車を運転中、事故を起こしてしまった場合。

こんなとき、従業員に損害の全額を請求し、従業員も疑問を持たずに支払う事例を見聞きしますが、実は、法的には全額を従業員に請求できるケースはほとんどありません。

 

民法の理屈から言えば、他人の物を壊してしまったら全額を弁償するのは当たり前。

例えば、友達から借りた物を壊してしまったら全額を支払いますよね。

しかし、会社と従業員の関係である場合は、別の考慮がなされます。

 

通常、雇用者はそれなりに大きな経済力を持っているのに対し、労働者の経済力は小さく、損害の負担に耐え切れないことも多いです。

また、雇用者は労働者に働いてもらうことによって儲けを得ています。それなのに、逆に損が発生した時はそれを引き受けないのか?いいとこ取りはおかしいのでは?という考え方もできます。

雇用者は、損害をカバーできるように保険に入るなどの措置を講じるべきだ、ということもありますし、そもそも、雇用者も損害発生の遠因を作っていると思われるケースもあります。

 

以上の事情により、過去の裁判例では、従業員が間違って損害を発生させてしまった場合(=過失による場合)には、そもそも損害の請求ができない、あるいは、損害の一部のみを請求できる、とされています。

例えば、最高裁判所の昭和51年7月8日判決は、運転手が追突事故を起こして、会社が事故の被害者に賠償金を支払い、その賠償金を運転手に求償したケースですが、会社は、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において」のみ損害を請求できると判断され、具体的には、損害額の4分の1が従業員の負担割合とされました。

ただし、わざと(故意に)会社に損害を与えた場合には損害額が限定されることはありません。

 

また、労働契約の中で、「会社に迷惑を掛けた場合には違約金を支払う」等の定めがなされることがありますが、このような規定は労働基準法16条に反し無効です。

※労基法16条

使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償を予定する契約をしてはならない。

最近、風邪で欠勤したアルバイトの高校生に罰金を科したコンビニがあるとしてニュースに取り上げられていましたが、遅刻や欠勤の場合に罰金を取るというルールについても労働基準法違反となります。

 

当事務所では、勤務先とのトラブルなどに関する御相談をお受けしております。

お気軽にお問い合わせください。

 

堺けやき法律事務所 弁護士 深堀 知子

 

 

 

 

 

 

節税目的の養子縁組は有効か?

皆さんご承知のように、相続税の計算上、子どもが多ければ多いほど控除額が増え、相続税を安く抑えることができます。

そのため、節税テクニックとして養子縁組を行なう資産家がたくさんいます。

ただし、相続税の計算上、子どもとしてカウントされるのは、

被相続人に実子がいる場合には養子1人まで

実子がいない場合は養子2人まで  という制限があります。

 

また、平成26年12月31日までに被相続人が亡くなられた場合には、

基礎控除額=5000万円+1000万円×法定相続人の数

だったのですが、法改正により、平成27年1月1日以降は

基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数

になりましたので、養子を儲けることによる節税効果は以前よりは低くなっています。

 

最近、節税目的で行った養子が民法の規定により無効になるかどうかが争われた事案がありました。

このケースはある男性の相続の問題ですが、男性には、実子として長男、長女、二女の3人がいたようです。ところが、男性は、税理士から養子縁組をすると節税になると聞いて、孫(長男の子、当時未成年)を養子にしました。

実子であれ養子であれ、子どもの間では相続分は等分になりますから、養子が入ったことにより長女と次女の相続分が減ります。

本来は3分の1ずつだったものが、4分の1ずつになってしまうのです。

納得できない長女と次女が、養子縁組は無効だ!と主張して訴えたのが今回の事例ということになります。

 

民法上、養子縁組をする意思がないのに、形式的に養子縁組の形を取った場合は無効になる、つまり、偽装養子縁組はダメ、と規定されています。

純粋に節税目的だった場合はどうでしょうか?

実際に孫を引き取って親子として生活するわけじゃないんだから、養子縁組と言っても中身はない、偽装じゃないか、とも言えます。

しかし、最高裁は、たとえ相続税の節税目的だったとしても、それは「動機」に過ぎないから、養子縁組をする意思がなかったとは言えない、と判断しました。

きっかけが「節税になるなら養子にしようかな?」ということだったとしても、同時に、心から養親子関係を築く気持ちを持っていた、ってこともあるでしょ? という理屈でしょうか。

わざわざ養子縁組をした男性の真意としても、孫に相続させたいというお気持ちだったんだろうと推測されますので、この結論は被相続人の意思に沿うものだと思います。

 

もし、節税目的の養子は無効ということになれば、相続税法上の基礎控除も認められなくなり、従来の「養子縁組で節税」という慣行は通用しなくなるところでしたので、最高裁の判決は、従来の節税法を法的に認めたものと言えます。

 

判決文はこちらをご覧ください。

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